特許の取り方、書き方

特許の取り方、書き方

特許の場合は、個人の方が自分で書いても
有効な特許になりにくい、というのは
なんとなく伝えられながらも、
いまいちしっくりこないケースが多い
のではないかと思われます。

また、最終的に特許事務所に依頼を出すにしても、
ある程度のところまでは自分で書いた方が、その後の書類作成が
スムーズにいくことが多いかと思われます。
どういう文章を書いていくべきかについて、少しまとめてみます。

1)アイデア抽出については→初心者でも特許をとれる方法、へ。

2)アイデアはあると言う方は→ アイデアスケッチについて

3)そして、先の出願がないかについて、
こちらに沿ってサーチしてください → 特許調査と検索の簡単な方法

その上で、そのアイデアは特許としてどんな風にまとめられるのだろう?
ということを、ここでは説明していきます。

まず、特許の文書には、
「特許請求の範囲」「明細書」「図面」「要約書」があります。
基本的には、大きな書店で売られている特許の書き方の本や、
「特許明細書の書き方」というサイトをあれこれ見ていれば
大まかな概要は分かると思います。
が、そこで理解される内容からだけだと勘違いしやすい部分を、
ここでは列挙していきたいと思います。

「図面」「要約書」については特段注意を払わなくても
そこまで誤った記載になることは少ないと思います。
特に「要約書」の記載は文献として利用されるにすぎず、
権利範囲に影響を与えるものではないので、
文字数制限だけ気を付ければあとは自由です。

そして、「特許請求の範囲」「明細書」が問題になります。
「特許請求の範囲」は、特許の権利の範囲を特定するものです。
ここに記載されたものが権利であると主張するものです。
そして、「請求項」の番号ごとに書きます。
この内容を事細かに説明するのが「明細書」「図面」です。
「明細書」は比較的自由に文章を書いてよい部分です。
「図面」はその意味だともっと自由です。
この辺は公報を参照すれば何となく理解できるかと思います。
特許庁データベース(j-platpat)を使ったことがないのであれば、
個人の自己出願でも依頼でも、特許公開公報の実物を見るのが先です。

特許請求の範囲(請求項)の書き方

1.「依頼してはいけない弁理士・特許事務所」にもいろいろと
書いているのですが、重要なのは「余計な事を書かないこと」です。
1つの請求項の中に記載されているすべてを満たすことで、
権利範囲に含まれるというものなので、どれか合致しない項目が
あったら、その時点で権利範囲に入らなくなるのです。

「円筒形で、中空で、底が閉じている一方で、上面が空いているゴミ箱」
という権利範囲があったとします(何にも新規性はないですが…)。

この場合、直方体だったり、底に穴があいていたり、
上面が空いていなくて横からごみを入れるものは、
いずれも権利範囲に含まれません。
したがって、本質的な部分だけを抜粋して、
権利範囲としなければなりません。
非本質的な部分をできるだけ除外した権利範囲を「広い」と呼びます。

なにかのゲーム特許(ビートマニアというゲームの特許で、
一部で結構話題になったようです)で、
請求項に「縦スクロール」と書かれたものがあったのですが、
こういうのは、横スクロールにしたら権利範囲に含まれません。
横スクロールについては、この特許に関しては
自由に作ってよいということになります。

2.その一方で、構成要件を極限まで除外していくと、
先行技術と何も差がなくなります。
発明を構成する中で、実装上必須と思われる部分を見抜くこと。
そして、必須と思われる部分と、特徴となる部分を関連付けて
書くこと。これが重要なのですが、なかなか経験がない人には
書くことが難しい部分です。
弁理士に依頼するときは、実装上外せない構成をできるだけ
列挙しておくと良いのではないかと思います。
不可欠となる部分は、多くの場合従来技術を構成する部分です。
しかし発明とは、従来からあるものの一部を改変することで
技術的進歩があったことを主張するものなので、
従来技術に対する言及が非常に重要となります。

大体どんな斬新なアイデアでも、遠く離れた分野では
多かれ少なかれ採用されているアイデアです。
したがって、そこだけ抜粋した場合、斬新さが見えなくなります。

どの製品分野におけるアイデアなのか、その製品では
通常どのような構成とするのが慣例なのか、
なぜそのようにしているのか(していなかったのか)、
というフリの部分が必要となります。
それはお笑いの構成と似ているところがあって、
オチだけじゃ全然笑えないのです。
まずさわりの部分があって、フリの部分で十分引きつけて、
そこでオチてはじめてお笑いとなります。
発明も同じで、フリがキチンとしていないと、
アイデア部分だけだときちんとオチてくれません。

一般的には、「余計な事を書きすぎてはいけない」
という意識が強くなりすぎ、必須の構成を列挙することが
おろそかになることが多くなりがちです。
弁理士に依頼する場合は、従来技術のうちの必須となる構成を
多く列挙した上で、何が発明概念を構成するかを議論するようにすれば、
多くの弁理士はそれこそ腕の見せ所と張り切ることでしょう。

明細書の書き方

特に個人の方が書いている明細書を読んでいると、権利書としては
見てられないものがあるので、特に留意すべき点を書きます。

【発明の名称】 
請求項の末尾の文言をそのまま書きます。
「AAで、BBで、CCな印刷装置」なら、
発明の名称は「印刷装置」です。
「印刷方法」にかかる独立請求項も含む場合は、
「印刷装置及び印刷方法」です。

【技術分野】
【背景技術】
発明の背景になる技術を書きますが、ここはあっさり書くのが良いです。
「従来からあるもの」を説明する部分なので、逆にいうと、
権利範囲に含まれない部分の説明部分になります。
書けば書くほど損するということは覚えておいてください。

【先行技術文献】
【特許文献】
適当に調べて、似ている公開公報を1つ挙げてください。
そして、「背景技術」か「発明が解決しようとする課題」で
簡単に概要を説明します。

【非特許文献】
特許文献があれば、こっちは不要です。

【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
「発明の効果」に至るための導入部分になります。
つまり、裏返しの説明となります。
一方、「背景技術」と同じで権利範囲に含まれない部分でもあるので、
そこを留意して適度な記載に留めます。

【課題を解決するための手段】
請求項の概要を書く部分です。
発明の概要としての部分なので、具体的にすればするほど
権利範囲を限定する部分として解釈されることが多い部分です。
請求項1のみを文章形式に直すにとどめるのが一番無難です。

ここを丁寧に書いている発明者がいたりしますが、
書いている内容の多くは「発明を実施するための形態」
に記載すべきものです。弁理士がついてれば記載を移し替える
だけですが、そうでないときはそのままになったりします。
ここに事細かく書いていても、中間処理で役に立たないし、
限定事項になるだけかなと思います。

昔はここの他に「作用」なんて項目があって、今はなくなったのですが、
その頃の名残として、「作用」に書くべき作用効果を、
請求項ごとに記載に対応付けてここに書く方も多かったりします。
それはどうなのか、自分はちょっと否定的な見解に立ちます。
ただ、そういう書き方の人も結構いるということです。

【発明の効果】
特許請求の範囲に記載した発明の効果です。
「発明を実施するための形態」から来る効果を書くのは、
発明の内容を限定するものとして解釈される恐れがあります。
そういう話は、「発明を実施するための形態」
に書くほうが良いです。
請求項の記載事項を絡めながら書いていくのが良いのですが、
実はここの項目は削ってしまって全然問題ありません。
もちろん効果に関する記述が不要というわけではなく、
「発明を実施するための形態」にこの点の記述を書きます。

【図面の簡単な説明】
図面の説明です。

【発明を実施するための形態】
ここが最大のポイントです(後述)。

【実施例】
項目を設ける必要がありません

【産業上の利用可能性】
項目を設ける必要がありません

【符号の説明】
図面の各符号が意味することを書いてください。

発明を実施するための形態の書き方

明細書の記載のうちで、一番重要なのはここです。
逆に、それ以外の部分はほとんど書かなくてもよいとさえ言えます。
他の項目で書きたい部分も、とりあえずここにすべて書いておけば、
余計な問題はすべて回避されます。
技術的事項については、ここには書けば書くほど良いというのが
一般的な特許実務者の認識です。
ただし、「この発明は・・・である」という書き方は
しないほうが良いでしょう。「発明」という単語をここで用いる
のは多くの場合、好ましくないというのが一般的です。

ここに記載する事項は、「特許請求の範囲」の記載事項の根拠となります。
「円筒形で、中空で、底が閉じている一方で、上面が空いているゴミ箱」
の例でいうと、

底はどのような形で、どのような大きさで、どのくらいの高さで、
材質は、穴の大きさは、…ということを細かく書いていきます。
この辺の細かい概要をまとめると、要するにこうなる、
というのが請求項の記載です。

根拠となる記載がきちんとここに書かれていないと、
記載要件違反となります。請求項の記載は「この範囲で権利がほしいです」
という部分です。これに対応する開示が書かれていないと、
権利として認めることができません。

と同時に、いろんなことが書かれていれば、審査の過程で請求項を
補正しなければならない事態が発生した場合に、ここに記載されている
事項を根拠として補正をすることができます。
書かれていないことを主張することはできません。
後で主張したいがために、ここにいろんなことを書いておくのです。

重要なのは、発明の特徴部分に絡む従来技術の記載を上手に
盛り込んでいくことです。ここが抜けることが結構多いと考えます。

たとえ話ですが、「チョコレートと、しょうゆを隠し味に使ったカレー」
を思いついた!とします。
得てして、ポイントとなる「チョコレートと、しょうゆ」
ばかりを書いてしまうケースを見かけます。
それはカレーではなく、しょうゆかけチョコレートです。
さすがにおいしくないと思います。
カレーの説明をきちんと書いてこその隠し味です。
そして、カレーを構成する必須の部分は何か?
をうまく抜粋して列挙することが、明細書作成の重要なポイントです。

どんな香辛料が用いられていればカレーなのか、小麦粉は、
バターは、と疑問は尽きません。カレーにはじゃがいもが
欠かせない方はいらっしゃるでしょうが、
じゃがいもを構成要素にしてしまったら、
ジャガイモのないカレーに権利行使はできなくなります。
大体カレールーの販売過程ではジャガイモは入っていません。
その中でカレーと呼ぶには何が最低限という話になります。
発明の構成要素には、そういう最低限の特定過程が含まれます。

まとめ

いかがでしょうか。ここに挙げたものは、基本中の基本です。
しかし、個人の方が自分で書かれている特許出願はこれすら守れていません。
(特許事務所での代理分でも微妙なものを見かけますが…)
そして、弁理士に発注する場合でも、こういうことに気を配っているんだ、
ということを理解していただければ依頼もスムーズにいくかと思います。

他、分からないことについては、お気軽にお問い合わせください。

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