依頼してはいけない弁理士・特許事務所

依頼してはいけない弁理士・特許事務所

本当はいい弁理士とダメな弁理士(あるいは技術担当者)の違いについて説明したいところですが、「いい弁理士(特許事務所)」ってのも基準が十人十色なところがあって、確定的なことがいえません。
「おいしいレストラン」といっても、色んな料理メニューがあるので、その基準を「秘伝の隠し味」とかにしてしまうと、それに当てはまらないレストランはダメなのかとなってしまいます。

ただ、ダメなレストランというのははっきりしてますよね。「おいしい」は千差万別ですが、「まずい」は大体共通してます。そしておそらく弁理士の世界でも「これはダメだろう」というのはある程度共通項があるように思うのです。

優秀な弁理士であれば、より高いレベルで切磋琢磨することになるので、「何をもってダメとするか」などはあえて考えたりしません。やっちゃいけないことは自然にやらないように訓練されているのです。また、誰かを誹謗中傷することも表立ってすることは好まれないことからも、案外この手の議論というものはされていないように思われます。

一方で依頼者目線で言うと、誰に依頼すべきかどうかは案外区別がつかないものです。知的財産というものはプロ対プロが多数の商売なので、依頼者側も目が肥えていることが多いです。しかしながらそうでない依頼者も多く、そういう依頼者が出来の悪い弁理士に誤って依頼をしてしまい、その結果的確な権利取得が出来ずに「特許なんて取っても意味がなかった」などという結果になることが案外多いように聞いています。仕事がない弁理士はそれなりに必死ですから、区別ができないとそっちに流れるかもしれません。

良く特許査定率をもって自慢とする例もあったりすると思います。
確かに高いお金出す訳ですから、特許が取れないじゃ話にならん、というのは全くもってその通りです。ただ、特許業界の中では割と当たり前の議論ですが、特許取るだけならどうとでもなるのであってどうやって役に立つ権利範囲を確保するかが大事です。しかしこの権利範囲の的確さというものがなかなか素人目には分かりにくいものです。
まず広いか狭いかというものが分からないですし、広ければいいのかというと、必要なターゲットが抑えられていれば狭い方が係争には強いという見方もあります。広めの権利範囲を好む人、保護範囲を念頭に狭めに権利範囲を作成する人がいます。その優劣はなかなか結論が出るものではありません。しかしながら無駄に限定的になってしまうという事例が案外見られたりするのでここが1つの基準になるのかなと思います。

  • 結論としては、中間処理対応のうまい下手ということになりますが、
    その辺は「拒絶理由通知への対応と戦略のまとめ 」に
    まとめましたので、そちらをご参照ください。
    本記事は権利範囲の広さがテーマですが、上記記事でも
    違った観点からこの点について説明しています。

J-platpat(特許庁のデータベース)で公報を調べる

まずはJ-platpatアクセスして、その弁理士(または特許業務法人)の作成した公報を見てみましょう。大手特許事務所だと多すぎて判別できなくなりますが、小規模事務所だとある程度数が絞られます。ある年の何月から何月と絞ってから調べてみると良いでしょう。

ここから、明細書そのものに入る前に、どのクライアントの案件、どういった担当技術を持っているかが分かると思います。一般的に特許事務所は固定のお客さんの仕事を集中的にやる傾向があります。このお客さんがメインなんだなということが分かると思います。

ちなみに当事務所は開業したばかりなので、一覧にアップされていないと思います。
特に出願から公開までは1年半かかるので、この点ご容赦ください。

ダメな明細書・特許請求の範囲の基準

  • 長すぎる請求項
    請求項(クレーム)の長さは先行技術との関係や、技術内容的にたくさん説明しないと特定できないという場合もありますから、1つの請求項が長いということを持ってこれはダメだと結論付けることはできません。
    しかしながら、業界的に長いクレームはダメというのが一般的に言われています。その弁理士の書いたクレームがどれもこれも長いとなると、これはちょっとまずいのではというのが一般的な見立てです。請求項が長いというのは限定事項が多いということを意味します。限定事項が多くなるほどに権利範囲は狭くなります。たまに技術者の中で、あれもこれも盛り込みたいと要望を出される方がいます。もちろん実施例に色々盛り込むのは良いことです。しかしながら請求項に限定事項を増やしていくとあっという間に使えない権利です。
    こういう無駄な限定事項を請求項の中に入れ過ぎるのはダメな弁理士である、というのは業界人なら全員が納得する点だと思います。
  • NGワード
    明細書・特許請求の範囲に入れてはならないNGワードというものがあります。明細書ではまあ交渉次第なことも多いですが、特許請求の範囲にそれを入れて特許になってしまうと致命傷です。こんなことをやってしまう専門家がいるのかという事件が案外あったりするのです。

実際に権利範囲の設定で失敗した事例集

そこで、具体的な事件と、そこで対象となった特許請求の範囲を見ていきましょう。

平成24年1月16日判決言渡平成23年(ネ)第10056号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第35411号)

A ISDNに接続した番号調査用コンピュータにより、使用されているすべての市外局番および市内局番と加入者番号となる可能性のある4桁の数字のすべての組み合わせからなる調査対象電話番号について回線交換呼の制御手順を発信端末として実行し、網から得られる情報に基づいて有効な電話番号をリストアップして有効番号リストを作成する網発呼プロセスと、
B 前記網発呼プロセスにより作成された前記有効番号リストを複数のクリーニング用コンピュータに配布して読み取り可能にするリスト配布プロセスと、
C 前記各クリーニング用コンピュータにおいて、クリーニング処理しようとする顧客などの電話番号リストを読み取り可能に準備し、このクリーニング対象電話番号リストと前記有効番号リストとを対照することで、前記クリーニング対象電話番号リスト中の有効な電話番号を区別するクリーニング処理プロセスと、
D を含んだことを特徴とする電話番号リストのクリーニング方法。

詳しくはこちらを参照

判例紹介じゃないので簡単に言うと、クレームに「すべての」って書いてますが、侵害態様は全部の番号を対象にしていませんよ、って反論して被告に逃げ切られてしまった事件です。
こんなことで逃げられるのか、って思うかもしれませんが、まともな弁理士はクレームに「すべての」なんて書きません。製品態様に例外事項を設けてしまえばそれで終わってしまうからです。仕様上絶対に「すべての」であることもありうるでしょうが、本件はそこで逃げられてますからね…。もういっちょ行きます。

平成24年9月26日判決言渡 平成24年(ネ)第10035号 特許権侵害差止等請求控訴事件(原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第17848号)

A  複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データ値の分布に 基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し,この設定された前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像を生成す る医療用可視画像の生成方法において,
B 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反映させると共に,
C 前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定される前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可視画像の生成方法。

詳しくはこちらを参照

まあ同じ話なので察しつくと思いますが、「全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度」じゃなくて一部だよ、って被告の富士フィルムは逃げ切った事件です。せっかく特許取ったのにこんなんで逃げられて、悔しいから控訴してみたけど案の定ダメでしたという事件ですね。

案外こんなしょーもない権利化処理なんて少なくありません。だってこれ高裁まで行った事件ですよ。地裁どまりはもっと多いでしょうし、交渉の段階で泣きを見てるなんてそれこそ山のようにあるでしょう。あんまりしょうもない事件を掘り返すのもやってて嫌になるのでこの辺にしますが、あきらかにまずい料理を出すところは、この程度の材料であっさり判断できてしまう点は覚えておいてください。

こんなつまんない仕事をされた挙句、「特許なんてとっても意味ない」との中小企業の方の嘆き…、やってられないのはもっともですが、もう少し代理人を見極めて欲しいなあという気持ちもこちらとしては多少あります。

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