低侵襲医療機器の特許の具体例と解説

低侵襲医療機器の特許の具体例と解説

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低侵襲医療機器の特許として、循環器系カテーテル及び関連機器に関するものが挙げられる。特に、血管に挿入されるカテーテル及びカテーテルと共に使用される医療機器が挙げられる。具体的には、血管に挿入されるカテーテル、そのカテーテルにより体内に留置されるデバイス、そのカテーテルを利用した治療で利用される機器などである。

低侵襲医療機器は、患者の負担を軽減し、治療期間の短縮を可能にする。
低侵襲医療機器は患者に設けた小さな開口部から挿入して治療を行う際に用いられ、
循環器系カテーテルのほか、ステントやカテーテル誘導装置といった種類があり、
(ステントとは、血管狭窄部の拡張処置後、血管が再び収縮しないように
血管内に残置される筒状部材である)冠動脈の閉塞・狭窄、脳動脈や大動脈の動脈瘤、不整脈などの手術や治療に用いられている。
世界の人口増加や新興国の発展に伴う中間所得層割合の増加により、
低侵襲医療の需要者は増加していくものと予測されており、
低侵襲医療機器の重要度は高まっていくものと考えられる。

医療機器の特許の問題点と解決策

全般的な傾向として、医療機器の分野は、他の分野に比べて特許になりやすい傾向がある。
処理や構成面で他分野で既に存在するものを医療分野に転用するだけで
特許として成立するものも数多くみられる。
その結果として、技術開発を進めた結果、多数の特許が先行して存在し、
多額のライセンス料を要求されるケースも多くみられる。
それも高度な技術内容により特許となったものに限らず、
比較的低レベルにもかかわらず回避が難しいような特許も多い。
医療機器の開発においては、これらの特許に対してクロスライセンスを
申し出やすいように、並行して多数の特許を取っていくことが必要となる。

特許の対象としてのカテーテルの「課題」

カテーテルの形状および機能が単に新しいというだけでは特許にならない。
従来品に対して何らかの形で課題を解決するカテーテルが特許の対象になる。
カテーテルについて解決すべき課題として、
「低侵襲性」、「機能・性能」、「経済性」が挙げられる。

「低侵襲性」は、身体への痛みや傷を軽減するというものである。
手術自体に係る観点として、「痛みの低減」、「回復までの時間短縮」、
「人体への損傷防止」、「処置の最適化」などがある。
一方、術後の「合併症の防止」などの観点からの「生体親和性」、
「生体吸収性」も重要な課題である。
「生体親和性」は、例えば、狭窄した血管の治療用に留置したステントが、
血管の内壁の生体組織、生体細胞とよく馴染み、生体がステントを異物として認識せず、
血管の拡張された状態が長く維持されることにつながる。
「生体吸収性」は、例えば、ステントが血管狭窄部の拡張維持の機能を果たした後、
生体内で分解され、生体に吸収されることである。
「機能・性能」は、治療機器としての機能、性能を向上させるというものである。
手術器具の基本特性としての「操作性の向上」、「通過性・潤滑性の向上」、
「機械特性の向上」のほかに、現在治療が難しい脳内の細い血管や脚の末梢血管などへ
適用できるようにするための「小型化・細径化」などがある。
また、「位置精度の向上」は、体内のカテーテルの位置や血管の位置、形状などの情報を、
術者に対してより正確に提供できるようにすることである。
一方、治療効果の観点からは、「再狭窄防止」が重要な課題として挙げられる。

特許において重要となる、上記課題を解決するための手段

もちろん課題があるだけでなく、その課題をどのように解決するかも同様に重要である。
解決手段には、低侵襲医療機器の「構造」に関するもの、「形状」に関するもの、
「材料」に関するもの、「製造方法」に関するものがある。

「構造」とは、部材の積層構造、機構的な仕組み、デザインなどである。
例えばカテーテルでは、バルーンの積層構造やチューブの積層構造、
ステントや塞栓コイルなどをカテーテルから押し出す仕組みや
カテーテルから分離する仕組みなどがある。
またステントでは、血管内で拡張するためのデザインなどがある。
「形状」とは、外観のことであり、形と大きさである。
カテーテルやガイドワイヤが血管内部を傷つけずに血管内を移動しやすくする形や
大きさに関する技術などがある。「材料」とは、金属や樹脂などの機能性材料のことである。
生体を刺激することがない親和性とともに、機械的な強度や柔軟性を実現する材料が求められる。
「製造方法」とは、例えば、低侵襲医療機器を安価に、安定した高い品質で生産するための技術である。

特許の対象となる低侵襲医療機器とは

「カテーテル」、「カテーテル誘導装置」、「留置デバイス」、「カテーテル周辺機器」がある。
「カテーテル」は、手技に応じて様々なものが用いられる。
したがって、バルーンカテーテルやアブレーションカテーテルなど、
カテーテルの種類の観点、カテーテルチューブやハンドルなどの
部品の観点から分類することができる。
「カテーテル誘導装置」は、カテーテルを治療部位に導くための装置であり、
ガイディングカテーテルとガイドワイヤがある。
「留置デバイス」は、治療部位に留置されるデバイスである。
留置デバイスとして、ステント、ステントグラフト、フィルタ、塞栓コイル、閉塞栓などがある。
「カテーテル周辺機器」は、循環器系カテーテルとともに治療に利用する機器である。
例えば、直視できない血管の形状や狭窄の程度、カテーテルの位置を正確に把握するための
MRIや超音波装置などの医用画像機器などがある。
「カテーテル周辺機器」は、カテーテル手術前に利用する「治療計画機器」と、
カテーテル手術中に利用する「治療ガイダンス機器」などである。
「治療計画機器」は、手術前に手術をシミュレーションすることにより、
手術計画を立案、評価し、手術のトレーニングを行う機器、ステントなどの留置デバイスを
治療部位の血管の形状に合わせて設計する機器などである。
「治療ガイダンス機器」は、手術中に治療部位やカテーテルなどの位置の表示や、
体内における機器の進行方向の誘導を行うなど、術者に情報の提示を行う機器である。

カテーテル治療に用いられる低侵襲医療機器は、治療の各段階において要求される
固有の機能を有している。例えば、ステントは、狭窄した血管を内側から支持し、
拡張状態を維持する機能を有するものであり、従来は、基材である金属が
むき出しのベアメタルステント(BMS)が使用されてきた。
その後、血管の拡張状態を維持する機能に加えて、再狭窄を防止するために、
血栓の生成を抑制する薬剤を徐放する機能を備えた薬剤溶出型ステント(DES)が開発され、
市場において、急速にBMSからDESに置き換わり、DESがステント市場規模の拡大を牽引している。
さらに、治療を終えると体内で吸収される生体吸収性ステントの開発も進められている。
また、近年のIT(情報技術)の発達により、術中に医師を支援するシステムが開発されている。
中でも、カテーテルなどの低侵襲医療機器の位置や、患部の状態などをセンサーにより検出し、
可視化して医師に提供する画像化技術、及び、カテーテルの進行方向や、
次に行うべき処置についての情報を医師に提供するナビゲーション技術は、
カテーテル治療の安全性や正確性を向上させ、手術時間の短縮を図ることができる。
また、経験の少ない医師であっても、適切な治療を行うことができるという利点もある。
さらに、術前に、患部の状態をコンピュータ上で再現し、
それを用いて医師が手術のトレーニングを行う手術シミュレーションや、
術後に、多数の患者の治療結果をビッグデータとして収集・分析して
診断や治療に利用すること、あるいは患者個人別になされるテーラーメード医療に
応用することなど、様々な場面においてITが活用されている。
また、カテーテル治療の別のアプローチとして、カテーテル治療と
外科治療・手術などを含む新しい治療との併用、すなわちハイブリッド治療も今後想定される。